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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)1321号 判決 1957年2月11日

控訴人 榎本栄三郎 外一名

被控訴人 黒木彌助

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す、被控訴人が控訴人らに対する東京法務局所属公証人鶴比左志作成第三二二号金銭消費貸借公正証書に基ずく強制執行はこれを許さない、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の提出、認否、援用は、控訴代理人において立証として、甲第一号証、同第二号証の一ないし三、同第三号証、同第四号証の一ないし三、同第五号証(写)、同第六号証の一ないし十五、同第七号証の一ないし十、同第八号証の一、二を提出し、当審証人真野稔の証言を援用し、被控訴代理人において、甲第一号証、同第三号証、同第八号証の二の各成立及び同第五号証の原本の存在並びにその成立を認め、同第八号証の一の郵便官署の作成部分の成立を認め、その他の部分及びその余の甲号各証の成立に対し不知を以つて答えた外、原判決事実摘示の記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

控訴人らと被控訴人との間にその主張のような強制執行認諾文言の記載ある公正証書が存在すること及び右公正証書について同一当事者間に被控訴人主張のような確定判決が存することは当事者間に争のないところである。そこで被控訴人は、「本訴は右確定判決と同一の請求原因に基ずく訴訟である、仮りに然らずとするも、本件の異議は民事訴訟法第五百四十五条第三項の規定により別訴を以つて主張することを許されないものである。」と主張するので、この点について考究するに、本訴の請求原因は、「控訴人らは被控訴人に対し右公正証書に記載された内容の債務を負担したことがないのに拘わらず、被控訴人が控訴人らの白紙委任状及び印鑑証明書を冒用して本件公正証書を作成した。」というにあるに対し、成立に争のない乙第一号証によれば前訴の請求原因は、「控訴人らが被控訴人に対し他の目的を以つて交付した白紙委任状及び印鑑証明書を、被控訴人において冒用して本件公正証書を作成したものであつて、公正証書作成につき控訴人らの合意がなく、またなんら代理権のない者が右公正証書作成に関与しているのであつて右公正証書は債務名義たる効力を生じない。」というにあることが認められる。従つて前訴においては、「控訴人らが被控訴人に対し債務を負担していない、」との点は明らかには主張されていない。しかしながら前訴が民事訴訟法第五百四十五条の請求に関する異議の訴として提起された事実にかんがみるとき、並びにその訴の判決理由(乙第一号証)を検討するときは、その請求原因中には当然「控訴人らは右公正証書に記載された内容の債務を負担していない。」との主張を包含するものと解せざるをえない。何となれば、若しその請求原因が債務の存在を争うのでなく、単に公正証書の作成に関する瑕疵を主張するにとゞまるものであるならば、これは執行文附与に対する異議の事由となるのみであつて、請求異議の訴の原因となすことはできないからである。そうすると前訴における請求原因は本訴におけるそれと全く同一であるというべきである。仮りに控訴人ら主張のようにこれが同一でないとしても、民事訴訟法第五百四十五条第三項の規定によれば、数箇の異議の事由はすべて同時にこれを主張することを要するものであるところ、本訴における異議の事由(債務不存在の主張)は控訴人らが前訴において当然主張しうべかりしものであること、当審証人真野稔の証言に徴するも明らかであるから、これを前訴において主張せずして別に本訴において主張することは許されないものといわざるをえない。しかしてこの理は執行力の排除を求める債務名義が判決であると公正証書であるとによつて差異を生ずべきいわれはない。以上いずれの点からするも控訴人らの請求は理由がないので、控訴人らの本訴請求は棄却を免かれない、よつてこれと同趣旨に出でた原判決は相当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十五条を適用し、主文のとおり判決した。

(裁判官 岡咲恕一 亀山脩平 脇屋寿夫)

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